保育園の人事評価は職員の成長を促す温かい風土づくり
執筆者
社会保険労務士法人ワーク・イノベーション
代表 菊地加奈子氏
ハラスメントや人間関係の問題に苦しむ保育者からの相談も増えている一方で、管理者にとっては
「必要な注意であってもハラスメントが疑われてしまう」
「部下の育成のために指導をしても離職に繋がってしまう」
など、苦しい状況が伺えます。
厳しい指導を受けたり否定される経験が昔よりも大幅に減ったことで
若者のストレス耐性や粘り強さといったものがなくなってきているのではないか?という声も聞かれますが、職業人を育成するという観点で「評価」は非常に重要です。
ポイントは、「評価」を導入して「指示に従わないものは評価を下げる=待遇も落とす」といったことに主眼を置いて統制を取ろうとするのではなく、職員一人ひとりがフィードバックを受けることによって自身を振り返りながら次の目標を設定していく「育成のサイクル」をつくることです。
そのためには職員が評価されることに慣れ、自分自身の振り返りと併せて改善に向かって努力していく「レジリエンス(困難な状況に直面してもしなやかに回復する精神力)」を身につけていくことに注力すべきといえます。
もちろん、評価は賃金や待遇を決めるための指標にもなりますが、目的はそれだけではありません。
では、育成を目的とした評価のためにはどのようなプロセスが重要でしょうか。それは「しくみづくり」です。
育成の壁は適切な評価項目の設定だけでは解決できるものではありません。最初から評価のフィードバックに慣れている若者は少ないですし、フィードバックを受けてポジティブに行動変容を起こすには時間もかかります。
そして何より、職員を適切に評価し、フィードバックする管理者側にも成長が必要です。
定期的に評価を実施すること、その職員の変化を感覚ではなく客観的に可視化できること、その変化(成長度合い)を昇格・昇給につなげていくこと、こうした流れを時間をかけて確立していくことで職員が育ち、保育の質が高まっていくのです。
これこそが「育成のための評価」といえるでしょう。
若者は評価を怖がっているのではなく、成長を感じられないことへの漠然とした不安を恐れています。安心して自分の強みも弱みも開示でき、その成長の軌跡を自分事のように考えてくれる組織の存在に帰属意識を感じます。
長期的な視点で、育つ組織づくりを考えていく上でも、人事評価の導入を図っていくことは非常に有効です。