日本版DBSがもたらす保育の未来〜子どもの安全を守るための新たな挑戦〜

日本版DBSとは? 性犯罪歴を確認する新しい仕組み
子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないかを確認する制度(日本版DBS)を導入するための法案が今年3月に閣議決定され、成立間近となっています。
この法案では、民間の事業者を含め広く、教員や保育などの従事者による性暴力を防止することを目的として、求職者と現職保育者の性犯罪歴の有無を確認することを義務付けました。
この法案による労務管理のポイントを整理します。
新制度の限界と課題 〜犯罪を完全に防げない現実
このシステムは雇用する人(これから採用する人・すでに雇用している人)の性犯罪歴を確認しますが、この犯罪歴とは、当然ながら有罪が確定した事件のみですので不起訴なった事件については対象から外れています。
また、もともと幼児への性嗜好があるのに逮捕歴はない人も多く存在していることを考えると、この仕組みが成立したからといって完全に犯罪を防ぐことは難しいといえます。
懲戒規定を見直そう就業規則には「懲戒」という規定が存在しています。
具体的にはけん責処分(始末書を書かせて厳重注意する)、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇といった種類があります。
原則として労働法は労働者(職員)を事業者から守る視点で定められていますので、規定を設けずに勝手に懲戒処分を行うことや解雇することが認められません。
たとえ職員が刑事事件で逮捕されたとしても、刑が確定する前に解雇してしまうと、場合によっては解雇無効を訴える裁判を起こされて敗訴してしまうというケースすらあるのが日本の労働法制の特徴です。
就業規則の見直しが不可欠 〜予防と対応の両面から
日本版DBSにおいては、性犯罪歴が確認された段階で配置転換を行うほか、それが難しい場合は解雇してもよいといった内容が盛り込まれる予定ですので、非常に画期的といえますが、
「本当に配置転換が難しかったのか?」
ということが争点となる可能性も拭えないことを考えると、事業者としてもしっかり懲戒規定において
「園児に対し、性暴力等の行為を行ったものは懲戒解雇とする」
と明記しておくことも必要になるでしょう。
起こってしまった事件の対応だけではなく、予防の役割も担う
懲戒規定は職員の不祥事に対する制裁という位置づけですが、就業規則は普段から周知されるべきものです。
どのような行為が懲戒処分に該当するのかということをあらかじめ職員に説明しておくことは、性嗜好を見極められないケースなどにおいては有効といえます。
多くの保育事業者の傾向として、性善説に立って職員と向き合っている方が多く、この懲戒規定というものを自分たちの法人・施設に合わせて検討したことがないように見受けられます。
「自分の園の職員がそんなことをするはずがない」という思いもあるでしょう。しかし、事業者が想定し得ない事件が起こっているのも事実です。子どもを犯罪から守り切るというリスク管理の視点をもって、改めて労務管理のあり方を考えてみてはいかがでしょうか。
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執筆者
社会保険労務士法人ワーク・イノベーション
代表 特定社会保険労務士 菊地加奈子氏